ここでは、比較的新しい論文から4編をとりあげて概要をわかりやすく説明しています。
動く赤いカスプオーロラの水平プロファイル
(J. Geophys. Res. Space Physics 2017年3月号)
キーワード:赤いオーロラ、高緯度電離圏、カスプ域、電子降下
地球の近くの宇宙空間に電子が降り注ぐことによって生み出されるオーロラは、いくつかの特徴的な波長の光を出していますが、そのうちの赤い光は、比較的ゆっくりと放射されています。本研究では、この比較的長い放射時間が、極域のカスプ域と呼ばれる特徴的な緯度・経度において見られるメソスケール(数10 kmから数100 km)の動くオーロラの広がり方にどのように関係しているのかを調べました。スバールバル諸島のロングイヤービィーエンの町の山の上に設置しているオーロラ全天イメージャーで4秒という高時間分解能で取得した赤色オーロラのデータと、ヨーロッパ非干渉散乱レーダーによって同時に取得したプラズマのデータを解析しました。それにより、メソスケールの動く赤いオーロラは、概ね前方の半分の領域に電子が降下しており、後方の半分は「残像」であることを実証しました。このことは、赤い色の光を放つ励起状態の酸素原子の密度の連続の方程式に基づいて準定量的に解釈することができます。また、その解釈のモデルに基づくと、赤色のオーロラの明るさや広がりには、降下してくる電子の遠方の源の状態がどのようになっているかだけでなく、実際に高度250 km程度にまでやってきた電子のかたまりが水平方向にどのように動いているのかということも大きくかかわっていることがわかりました。
出典
Taguchi, S., Y. Chiba, K. Hosokawa, and Y. Ogawa (2017), Horizontal profile of a moving red line cusp aurora, J. Geophys. Res. Space Physics, 122, doi:10.1002/2016JA023115.
対流圏の擾乱に起因する大気光同心円構造の全体像の初観測
(Geophysical Research Letters 2014年10月16日号)
キーワード:大気光、同心円構造、国際宇宙ステーション、近赤外域、中間圏・下部熱圏
大気光は地球超高層大気中の分子・原子が太陽光からのエネルギーを受けて光化学反応によって微弱な光を放出する現象です。高度400km付近を飛翔する国際宇宙ステーションに搭載されている可視近赤外分光撮像装置(VISI)は、中間圏・下部熱圏からのこのような大気光を観測しています。2013年6月1日04:33UT(UT:世界時間)から04:49UTにVISIは、北アメリカ上空の高度95km付近で発光する酸素分子大気光(波長762nm)の同心円構造を捉えました(図の右側部分。上側のパネルはVISIの前側の視野、下側のパネルは後側の視野)。このような同心円構造はこれまでの地上観測でその一端が捉えられてきましたが、今回初めて円の中心部から端までの全体構造を捉えることに成功しました。これにより、中心から1000km以上にわたって同心円構造がほぼ減衰せずに伝搬していること、水平波長80kmの成分が支配的であることが明らかになりました。また、VISIの前後の視野の観測時間差および波面の位置の違いから外向きの伝搬速度も推定できます。この同心円構造は、観測の前日に発生した竜巻に由来する雲から大気重力波が継続的に発生して上方に伝搬し、発光層付近で水平方向に広がった結果生じたものと考えられます。VISIは、この事例以外にも大気光中の同心円構造を捉えており、これらを通して、中間圏・下部熱圏と成層圏・対流圏の結合過程を明らかにできるものと考えています。
出典
Akiya, Y., A. Saito, T. Sakanoi, Y. Hozumi, A. Yamazaki, Y. Otsuka, M. Nishioka and T. Tsugawa (2014) First space-borne observation of the entire concentric airglow structure caused by tropospheric disturbance, Geophysical Research Letters, 41, 6943-6948, doi:10.1002/2014GL061403.
火星昼側上空で観測された磁気リコネクションの痕跡
(Geophysical Research Letters 2018年5月26日号)
キーワード:火星、MAVEN、磁気リコネクション、地殻磁場
磁気リコネクションは磁力線がつなぎ変わる現象で、宇宙空間プラズマの様々な領域で発生します。火星の昼側上空でも磁気リコネクションが起こることは長い間予想されていましたが、これまで決定的な観測的証拠はありませんでした。本研究では、NASAの火星ミッションであるMAVENが取得した、イオン・電子・磁場の観測データを総合的に解析することで、火星昼側の強い地殻磁場上空で磁気リコネクションが発生することを初めて実証しました。具体的には、MAVENが火星地殻磁場上空の電流シートを通過した時に、(i)閉じた磁力線に捕捉された電離圏起源の光電子、(ii)ホール磁場と垂直磁場成分、そして(iii)アルフェン速度程度のイオンジェットが同時に観測されました。さらにこれらの全ての痕跡が、MAVENがリコネクション発生位置よりも北側を通過したことを示していました。こうした総合的かつ一貫した観測結果は、火星昼側での磁気リコネクション発生を強く示唆するものです。このような火星昼側での磁気リコネクションは、昼側電離圏からのイオン流出経路や火星夜側の磁気テイルの構造を変えるという非常に重要な役割を担っている可能性があります。
出典
Harada, Y., J. S. Halekas, G. A. DiBraccio, S. Xu, J. Espley, J. P. McFadden, D. L. Mitchell, C. Mazelle, D. A. Brain, T. Hara, Y. J. Ma, S. Ruhunusiri, and B. M. Jakosky (2018), Magnetic reconnection on dayside crustal magnetic fields at Mars: MAVEN observations, Geophys. Res. Lett., 45, doi: 10.1002/2018GL077281.
アナログマグネトグラムから作られた高時間分解能地磁気データによる 1956 − 1975年の磁気圏イオン組成の見積もり
(J. Geophys. Res. Space Physics 2016年6月号)
キーワード:磁気圏プラズマ、酸素イオン、地磁気、太陽電波フラックス
今や、人工衛星が地球の周りの宇宙空間飛び、宇宙空間のプラズマのダイナミックな性質について多くのことがわかるようになってきました。一方、人工衛星による観測が行われる前の時代も含めた長い期間にわたる宇宙空間プラズマの性質を見出そうとすると、人工衛星の観測だけでは十分ではありません。本研究では、その目的のためには地磁気のデジタルデータが有効であることを示しています。茨城県の柿岡にある地磁気観測所において取得されてきたアナログの磁場データをもとに作った地磁気のデジタルデータを解析しました。そのデータから、不規則な波形をもつ磁場の振動現象を取り出し、その変動の性質をもとに1956年から1975年の間に磁気圏の平均的なイオンの質量はどのような大きさであったのかを見積もりました。その結果、上記の期間(およそ2太陽周期にもわたる範囲)において、磁気圏の平均的なイオン質量は、太陽活動を表す太陽電波強度と非常に高い相関をもって変動していたことを明らかにしました。太陽電波強度が増大すると、その電波を受ける電離圏の酸素イオンの密度と温度も上昇します。それにより、電離圏から磁気圏へと流れ出す酸素イオンの量が増え、水素イオンが中心となっている磁気圏に上昇してきた酸素イオンが混じることで、磁気圏の平均的なイオンの質量を増大させたと考えられます。
出典
Yamamoto, K., M. Nosé, N. Mashiko, K. Morinaga, and S. Nagamachi (2016), Estimation of magnetospheric plasma ion composition for 1956–1975 by using high time resolution geomagnetic field data created from analog magnetograms, J. Geophys. Res. Space Physics, 121, 5203–5212, doi:10.1002/2016JA022510.
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