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研究紹介

ここでは、比較的新しい論文から4編をとりあげて概要をわかりやすく説明しています。

地球の極域のメソスケールの電子降下と沿磁力線電流構造の安定的な性質

(Journal of Geophysical Research: Space Physics, 2020年5月6日掲載)

キーワード:赤いオーロラ、沿磁力線電流、太陽風磁場

地球の極域で見られるオーロラは、平均的には、地磁気極を中心とする輪のような場所(オーロラオーバル)で見られますが、その輪のどの部分であるのか、また、その部分が磁力線を介してつながっている磁気圏がどれくらい"荒れて"いるのか、さらに、磁気圏の外ではどのような性質をもった太陽風が流れているのかなどで、オーロラの構造、言い換えると、電子が磁力線に沿ってどのような構造をもって入ってくるのかは大きく異なります。その中でもメソスケール(水平スケール概ね100 km以下)の構造の性質については、まだよく分かっていないことがたくさんあります。本研究では、強い北向きの磁場を伴う太陽風がやって来ている時に、極域の夕方側の地方時ではどのような状況になっているのかを調べました。そこでは、沿磁力線電流(磁力線に沿って流れる電流)の20-30 kmのメソスケール構造をひとつの単位として、それが、緯度方向に複数存在しており、そこに、赤いオーロラを引き起こす比較的低いエネルギーをもった電子が強まって入ってきていることがわかりました。このような基本パタンは、少なくとも30分間は安定して維持されることもわかりました。こういった領域は磁力線を介して、磁気圏の夕方側の下流域における太陽風プラズマとの相互作用が強い場所につながっています。強い北向きの磁場を伴う太陽風が流れて来ている時には、その太陽風プラズマと強く相互作用を起こす磁気圏の下流の場所の状態が、極域の夕方側の高度数100 kmで見られるメソスケールの現象に大きく関わっていると考えられます。

出典

Yokoyama, Y., Taguchi, S., Iyemori, T., and Hosokawa, K. (2020), The quasipersistent feature of highly structured field-aligned currents in the duskside auroral oval: Conjugate observation via Swarm satellites and a ground all-sky imager, Journal of Geophysical Research: Space Physics, 125, e2019JA027594, doi: 10.1029/2019JA027594

対流圏の擾乱に起因する大気光同心円構造の全体像の初観測

(Geophysical Research Letters 2014年10月16日号)

キーワード:大気光、同心円構造、国際宇宙ステーション、近赤外域、中間圏・下部熱圏

大気光は地球超高層大気中の分子・原子が太陽光からのエネルギーを受けて光化学反応によって微弱な光を放出する現象です。高度400km付近を飛翔する国際宇宙ステーションに搭載されている可視近赤外分光撮像装置(VISI)は、中間圏・下部熱圏からのこのような大気光を観測しています。2013年6月1日04:33UT(UT:世界時間)から04:49UTにVISIは、北アメリカ上空の高度95km付近で発光する酸素分子大気光(波長762nm)の同心円構造を捉えました(図の右側部分。上側のパネルはVISIの前側の視野、下側のパネルは後側の視野)。このような同心円構造はこれまでの地上観測でその一端が捉えられてきましたが、今回初めて円の中心部から端までの全体構造を捉えることに成功しました。これにより、中心から1000km以上にわたって同心円構造がほぼ減衰せずに伝搬していること、水平波長80kmの成分が支配的であることが明らかになりました。また、VISIの前後の視野の観測時間差および波面の位置の違いから外向きの伝搬速度も推定できます。この同心円構造は、観測の前日に発生した竜巻に由来する雲から大気重力波が継続的に発生して上方に伝搬し、発光層付近で水平方向に広がった結果生じたものと考えられます。VISIは、この事例以外にも大気光中の同心円構造を捉えており、これらを通して、中間圏・下部熱圏と成層圏・対流圏の結合過程を明らかにできるものと考えています。

出典

Akiya, Y., A. Saito, T. Sakanoi, Y. Hozumi, A. Yamazaki, Y. Otsuka, M. Nishioka and T. Tsugawa (2014) First space-borne observation of the entire concentric airglow structure caused by tropospheric disturbance, Geophysical Research Letters, 41, 6943-6948, doi:10.1002/2014GL061403.

火星のオーロラ発光・電子降下・夜側電離圏増強の同時観測

(Earth Planets and Space 2024年5月6日掲載)

キーワード:火星オーロラ、夜側電離圏、電子降下

火星の大気に宇宙空間から荷電粒子が降り込んでくることによって発光する火星オーロラは、2000年代に発見されたばかりの現象で、オーロラを発生させる荷電粒子が火星大気に降り注ぐ仕組みの全容は謎に包まれていました。2021年からEmirates Mars Mission (EMM)探査機による高感度の紫外分光器による観測が開始されると、多様な形態を呈するオーロラが火星の夜側で頻繁に発生していることが明らかになってきました。異なる形の火星オーロラは、異なる仕組みで大気に降り込んできた電子が引き起こしていると考えられますが、火星オーロラが光っている形とその直上での電子降下を同時に捉えた観測例はこれまでになく、どの種類のオーロラがどのような降下粒子によって引き起こされたのかを調べることができませんでした。この論文ではEMM探査機が火星オーロラを観測したのとほぼ同じタイミングで、そのオーロラの直上をMars Express探査機が飛行した観測事例を報告しています。Mars Express探査機の観測により、オーロラが光っている場所のまさにその直上で、電子が局所的に強く大気に降り注いでいること、そして探査機直下の電離圏の電子密度が周囲よりも高くなっていることが捉えられました。これは降下電子が火星大気にぶつかることで、オーロラ発光と大気の電離の両方を引き起こしていることを示唆しています。こうした同時観測事例から火星オーロラの形態と降下電子の特性を対応づけていくことで、様々な形を持つ火星オーロラのそれぞれについて、宇宙空間から火星大気に電子が降り注ぐ仕組みを明らかにしていくことができると期待されます。

出典

Harada, Y., Fujiwara, Y., Lillis, R. J. et al. (2024), Discrete aurora and the nightside ionosphere of Mars: an EMM–MEX conjunction of FUV imaging, ionospheric radar sounding, and suprathermal electron measurements, Earth Planets Space, 76, 64, doi: 10.1186/s40623-024-02010-x

火星昼側上空で観測された磁気リコネクションの痕跡

(Geophysical Research Letters 2018年5月26日号)

キーワード:火星、MAVEN、磁気リコネクション、地殻磁場

磁気リコネクションは磁力線がつなぎ変わる現象で、宇宙空間プラズマの様々な領域で発生します。火星の昼側上空でも磁気リコネクションが起こることは長い間予想されていましたが、これまで決定的な観測的証拠はありませんでした。本研究では、NASAの火星ミッションであるMAVENが取得した、イオン・電子・磁場の観測データを総合的に解析することで、火星昼側の強い地殻磁場上空で磁気リコネクションが発生することを初めて実証しました。具体的には、MAVENが火星地殻磁場上空の電流シートを通過した時に、(i)閉じた磁力線に捕捉された電離圏起源の光電子、(ii)ホール磁場と垂直磁場成分、そして(iii)アルフェン速度程度のイオンジェットが同時に観測されました。さらにこれらの全ての痕跡が、MAVENがリコネクション発生位置よりも北側を通過したことを示していました。こうした総合的かつ一貫した観測結果は、火星昼側での磁気リコネクション発生を強く示唆するものです。このような火星昼側での磁気リコネクションは、昼側電離圏からのイオン流出経路や火星夜側の磁気テイルの構造を変えるという非常に重要な役割を担っている可能性があります。

出典

Harada, Y., J. S. Halekas, G. A. DiBraccio, S. Xu, J. Espley, J. P. McFadden, D. L. Mitchell, C. Mazelle, D. A. Brain, T. Hara, Y. J. Ma, S. Ruhunusiri, and B. M. Jakosky (2018), Magnetic reconnection on dayside crustal magnetic fields at Mars: MAVEN observations, Geophys. Res. Lett., 45, doi: 10.1002/2018GL077281.

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